…と、電話の向こうでそいつは言った。ちょっと憐れみを含んだ蔑むような口調だった。
私達の入ってたネットサークルの話だった。あいつ=彼が長に立候補したのは、サークルの参加人数が一番少ない時期だった。
それまでサークルの代表を務めていた人の退任と、MMOの台頭と、「TRPGを掲示板使って遊ぶなんて時代遅れ」という雰囲気が蔓延し、参加者の流出を止めることは出来なかった。
その中で、彼はあえて火中の栗を拾った。
彼は、ただの、TRPGの好きな人間だった。そして、そのサークルのことがとても好きだった。
残った人たちに抵抗されながらも、彼は改革を行い建て直しを図った。でも結局、参加者とそりが合わず、彼が掲げた「一人ひとりの良心による運営」という理想も、大量に戻ってきた古参に「机上の空論」と拒絶された形となり、結果的に疲れ果て、追い出されるようにサークルを去った。
「だからね、人の上に立つにはね、才能ってのが要るんだよ。
あいつはそれが無かったんだよ」
電話の向こうで、そいつは何度も言っていた。
私はそいつに、一度面と向かって言ったことがある。
「そこまで言うなら、どうしてあなたが残って尽力しなかったの?」
彼らの言う『上に立つ才能のある人々』は、その頃誰もいなかった。才能ある人々が大切にするのは、自分自身だから、自分を削ってでも守るべき価値の無い存在を見放すのも早かった。
「どうして残って尽力しなかったの?」
それには答えず(答えられず?)、口ごもったことなどは忘れたかのように、電話の向こうで繰り返した。
「あいつは、人の上に立つ才能が無かったんだよ」
そうだね。確かに才能とやらは無かったかもしれない。
彼はTRPGを、そのサークルを好きなだけで、才能とやらがある人々から見れば取るに足りない、力量の無い、馬鹿にしてもかまわない人間だったかもしれない。
じゃあ、なんで、そんな人に『上』を任せる状況を作っちゃったのさ?
ただただ、TRPGを遊びに来た人にすべてを背負わせてさ。
一番大変な時期に、なんの手助けもしなかった人が、そんなことを言う資格って、あるのかねえ?
引き受けた方に責任はあるかもしれないさ。
それでも、才能をどうこう言えるほど、私はそっちが偉いとは思えないのは何でだろうね。
「あいつには、上に立つ才能がなかったのさ」
その言葉に、私はひとつの答えしか持ち合わせない。
そこまで言うなら、そこまで人を批判するなら、あなたがやればいい。
彼以上の『長』の才能とやらを、示すべきだ。
あるいは自分が『長』と認めた人に三顧の礼を尽くし就いてもらい、サポートに徹するべきだろう。
少なくとも、あそこはそういうサークルだ。
彼には、上に立つ才能は無かったかもしれない。
その、才能無き彼が心を折りながら繋ぎとめたサークルは今もある。
彼は、確かに才能は無かったかもしれない。
でも、そのサークルのことを、誰よりも愛していた。
もう、何年も前の、昔話だ。