■五日目 朝『魔女住まう森』散策/逍遥
・スペード10⇒[反発的存在]と遭遇
・発見遭遇表で「農夫」+【言葉決め/一語のみ】で「瞳」⇒「農夫の瞳」
【語り】
俺がそこへ辿り着いたのは、朝日もだいぶ昇ってからのこと。
人目で分かった。
朝の日差しが眩しくきらめく周囲をよそに、その一帯だけ奇妙に暮れなずんでるのだから。なぜそう思うのか、すぐ判明した。
茜色の霧が、森を包んでいるのだ。
そこだけがまるで、夕陽の中にあるような。
異空間でございと、大々的に宣伝しているような。
「お前さん、何してる?」
不意に背後から声がした。
驚いて振り向くと、一人のおっさん。格好からすると農夫で、畑にでも行く道すがらという感じだが、俺のことをじろじろ不躾に眺めている。
「いやあ、ははは、おはようございます」
間抜けにも挨拶をする俺。華麗にスルーされて、ますます居心地が悪くなる。
「ここ、魔女の森ですよね」
ひきつった笑顔で尋ねると、
「だから、何だ?」
その代わり眉間の皺が深くなった。
「おめえ、魔女ヘルガの仲間か?」
警戒感丸出しで、じろじろ眺め回す目。
「琥珀商か? 呪いの道具でも売りに来たか?」
農具を握る手に、力が篭った――気がした。
「いやいやいや、違います! ただの通りすがりだって!」
「ほんまか?」
その、胡乱な目で見られ続け、俺はどうにもたまらず、
「森の霧の色が不思議だから、眺めてただけですんで」
すんませんね、手間取らせました。
俺は愛想笑いをして、その場を離れた。
ゴードンが言ってたな、森に住む魔女は雨乞いをしたが、雨は降らず[動く目]を呼んだ。あれを使って、琥珀を独り占めしようとしてる、と。
それが、農民や村人に知れ渡ってるというなら、農夫の反応もありえるだろう。
農夫はいつまでも、俺を睨んでいる。少なくとも、あのおっさんの目が届く所で森に入るのはマズイ。
俺は森の周囲を迂回し、だいぶ歩いて。獣道を見つけると、そこから森に分け入った。
【語り終わり】
■五日目 昼『魔女住まう森』散策/逍遥
・クラブA⇒[印象的風景]を見る
・【言葉決め/二語連結】⇒[モンスターの気配]
・さらに【言葉決め/二語連結】⇒[まばゆいストーンゴーレム]
・ダイヤ5⇒真の風景に加えず
【語り】
俺が魔女に会う理由はただひとつ。
ゴードンやアミールの言うことが本当かどうか、確かめるためだ。
とは言うものの、土地勘の無い俺が、案内人も無く、いきなり深い森に突き進むのはどうかと思う。しかも村とは反対側、それもちゃんとした道じゃなく、獣道から『おじゃまします』だ。迷ってのたれ死ぬ為に入ったようなもんだ。
とは言うものの、今更戻ることは出来ん。俺は腹を括って、森の中を進む。
獣道はしばらくうねうねと続いた。あの、茜色の霧は相変わらず周囲を包んでいるが、しばらくすると次第に晴れてきた。霧はどうやら森の周囲にのみ漂っているようだ。視界が開けたのは、なんにしてもありがたいことだ。
鬱蒼とする森の中、獣道を分け入る。幸いなことに、空を仰ぎ見ることが出来る。おかげで、方角だけは見失わずにすみそうだ。
森の暗がりとは対照的に、天を仰げばギザギザに切り取られた青空。太陽が天頂に差し掛かるころ。
ぞわっとする寒気に襲われた。言いようの無い緊張感、もしかしたら、生命の危険に脅かされるかもしれない。
――怪物がいる!
直感。そうとしか言えないもの。しかし、確かな確信。
俺は、首筋にピリピリ走る緊張感を押さえ、背をかがめて周囲を見回した。ぐるりを見渡す視界の端に、きらりと輝くもの。
恐る恐る、俺は近づく。足音を潜め、息を殺し、手じかにあった朽ちた木の枝を武器代わりに構え。
そうして『その場』へ躍り出て――
「なんだ、こりゃあ――」
俺は絶句した。
そこは、小さな広場だった。膝ぐらいまで伸びた草っぱらの真ん中にあったのは。――金色に輝く巨大な人型。
俺の背丈の三倍もの高さのそれは、今にも動き出しそうだった。しかし、動く気配は無い。恐る恐る近づく――それでも動かない。そっと、触れてみる。ひんやりした感触が伝わる。よく見ると、巨人の身体は透けており、体内には気泡が浮いている。
「琥珀だ――」
すげえ…。宝石商で無い俺でも、これだけの琥珀があれば一生どころか、小さな村ひとつ何年もの間賄えることぐらい分かる。
「こりゃあ、ゴードンの言ってたことは、本当かもしれんなあ…」
琥珀を独り占めにし、私腹を肥やしている悪い魔女。俺は、そんな風に考え始めていた。
【語り終わり】
■五日目 夕『魔女住まう森』散策/逍遥
・ダイヤA⇒[印象的スポット]を見る
・スポット遭遇表で「子供の遊び」+【言葉決め/一語のみ】で「姿」⇒[子供の遊びのような姿]
・さらに【言葉決め/二語連結】⇒[得体の知れない魔法]
・さらに【言葉決め/二語連結】⇒[対幽魔の目]
・クラブ9⇒追加イベント無し
【語り】
琥珀の巨人の広場を後にし、俺はさらに進んでいく。
森の中の日暮れは早い。さっきまで天上を照らす太陽は、あっと言う間に陰り始めた。そろそろ野営の支度をしなければならない。
俺は目ぼしい場所を見つけ、そこにテントを張る。心もとなくなってきた食料を補うべく、探索をする。幸い、食べられそうなキノコと紅く熟した木の実を見つけ、それを今夜の糧にしようと決めた。
その帰り、木立のまにまに、ふと人影を見た――ような気がした。
まるで、子供の遊びのような姿――、いや、こんな森の中で。しかし、ここは魔女の住む森だ。茜色の霧にしても、さっきの琥珀の巨人にしても、不可解なことばかり。
意を決して、俺は『見えた』方向へ行ってみる。
――正体は、あっけなく分かった。木々に吊るされた、たくさんの白い板。板には目を模した模様が描かれている。
「[対幽魔の目]だ――」
いわゆる魔除け。これを下げておけば、イーヴォの聖なる目が幽魔を退けてくれるというものだ。これらが風に揺れて白い衣に見え、大きさから子供だと錯覚したのだろう。
少なくとも、この森には誰かが住んでいる。それだけは確信した。しかし、さすがに薄くれないの森の中に、目を模した板が揺れ動くさまは不気味だった。得体の知れない魔法にかけられているようで、俺は足早にそこを立ち去った。
【語り終わり】
■五日目 夜[変異混成]
・【言葉決め/二語連結】⇒[話したい仲間]
・[変異混成]
・一回目:「話したい仲間」⇒「話」「したい仲間」
・二回目:「話」⇒「わ」
・三回目:「旅」「したい仲間」⇒「旅したい仲間」
「し」を捨て、代わりに「わ」を。
【語り】
夕飯のキノコのスープは、案外美味かった。紅く熟した木の実も甘く、疲れた身体に染み渡る美味さだった。
奇妙な森の中で過ごす一夜。俺は、焚き火の炎をいつもより少しだけ大きめにし、寝袋に包まる。
「明日には、会えるんだろうか――」
ヘルガとか言ったな、魔女の名前。話の通じる奴ならいいんだがな。
――
――――
――
こんな夢を、見た。
俺の隣に、誰かがいる。
男なのか女なのか、年寄りなのか子供なのか分からない。
しかし、俺にとってはかけがえの無い仲間。
気の置けない、一緒にいるだけでほっとできる大切な友人。
そいつが、俺に何か言いたさげにしてる。
俺も、そいつに話したいことがいっぱいだ。
どんなくだらない話でも、真剣に聞いて、一緒に笑ってくれるのだから――
――
――――
――
そして、薔薇香る中庭で。
俺は今見たばかりの風景を手繰る。
ひとつをふたつに。
ひとつめをひらき。
ふたつめはすぐ前の風景と結びつける。
しかし、言葉はすでに庭に溢れ、全てを収めることは出来ない。考えた末に、俺は足元の景色を捨て、そこにひらいた風景を置いた――