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渡辺あやは、描かない #カーネーション
『カーネーション』の主役が、尾野真千子から夏木マリに変わった。

『カーネーション』のテーマは、小篠綾子さんの92年の人生を描くこと。10代から50代まで演じた尾野真千子さんからバトンタッチして、70歳からの20年を夏木マリさんで演じる。

この話を聞いたのは交代一ヶ月前で、率直な感想として「最後までオノマチさんでやって欲しいのに」はあった。しかし同時に、いくら演技が素晴らしいオノマチさんでも、老齢を演じるのには無理がある、とも考えていた。

昔のぼやーっとしたブラウン管TVならまだしも、何もかもクリアに映し出す地デジ液晶ハイビジョンでは、メイクをすればするほど、醜悪に映し出してしまう。しかも周囲を囲むエキストラは必然的にお年を召した方々になる。特殊メイクをしてでもオノマチさんを出せば出したで「無理がある」「交代したほうがよかったのでは?」と言う意見は、必ずでるのだ。

では、オノマチさんが演じられる、ギリギリの年齢でお話を終わらせればよかったのか? といえば「NO」だ。

小篠綾子さんは70をすぎて、自らのブランドを立ち上げた。そのエピソードを含めて、丸々切り落とすことは、はたしてどうなのか?と言う問題がある。もちろん「大正から昭和の激動の時代、三人の子供をトップデザイナーに育て上げたおかあちゃんの一代記」とし、後の人生はナレーションで簡単に終わらせる、めでたしめでたしでも、それはそれでいいのかもしれないが。

それでは、あくまで『三人のトップデザイナーを送り出した偉人』の描写に過ぎず、『人間・小篠綾子』の一面でしかないのだ。

このドラマの趣旨は『一人の人間の、多面的な顔を鮮やかに炙り出し、92年に渡る生涯を描ききる』こと。だから、役者交代はある意味妥当な判断だと考えていた。

しかし、ここまで徹底的に分断するとは思わなかった。
昭和40年から60年へ。糸子は50代から70代へ一気に変わった。

説明は一切無し、ゆえに転換では無く、断絶となった。
文字通り、全てが断絶したのだ。

脇を固めていた人は三姉妹を残し、全て消えた。役者だけではない。プログレッシブカメラで撮った、懐かしく暖かく切なくて甘い画像は消え、いわゆる普通のTVカメラで撮った平坦な画像になり、寒々とした寒色系の街並みとなった。10月から大切に積み重ねたものが一瞬で消え、その、あまりの変貌ぶりは観るものを途方に暮れさせた(注:プログレッシブカメラで撮る事を止めたかどうかは不明です)。

私自身、尾野真千子の演技に入れ込んではいたが、夏木マリにもわりと抵抗無く入れたのでそうでもなかったが、オノマチ糸子に惚れ込んでいた人には、これは相当つらいだろう。
(正直、これに関しては広報不足と言われても仕方が無い。予め告知されていれば、多少なりとも回避できたのに、と思わずにはいわれない。視聴者は、娯楽にそこまでストイックなものを求めてる訳じゃないのだから)。

ただ、この凄まじい喪失感、迷子感が、昭和60年代の浮ついた世相とリンクしている、という感触も否めないのだ。

夏木糸子スタートの舞台は、バブル真っ盛りの時代。よく覚えてる、といっても、どちらかと言うと地上げ方面のニュースばかり印象的だったけど。そこに住む人々に執拗な嫌がらせを繰り返して追い出し、その土地を転売して儲けたと言う話を随所で聞いた。
(地上げがどんなに凄まじかったかは、映画『マルサの女2』を観たらいいと思う)。

金と好景気が、心のよりどころとしていた懐かしい風景をなぎ倒し、押し流していった。そうして、たしかに、誰もが金銭的に物理的に豊かになった。

あの、暖かく懐かしい40年代の風景は、二度と戻ってこない。あの風景を失ったのは、我々の選択。物質的な豊かさと引き換えに明け渡し、「寒々とした」「薄っぺらい」空気の中で生きることを是としたのだ。

それが、72歳の糸子が生きる時代なのだと思った。

でも、景色に反して糸子の人生はとても豊かだった。この20年、地道に積み重ねたものを大切にした結果、お客にも従業員にも恵まれ、笑顔で暮らしている。なんと豊かな老後だろう、晩年はこんな風に暮らしたいものだと、糸子がとてもうらやましく思えた。死んでしまった人、別れた人の顔は見えずとも、ちゃんと傍にいることも知った。

あんな寒々とした空気の中でも笑いながら逞しく生き抜き、周囲の人々を温かく照らす力となり得るのなら、老いることもまんざらでもない気がする。そう思えるものが、夏木糸子から感じることができるのだ。

オノマチ糸子と夏木糸子は別もの。しかし、案外いけるんじゃないのと思えるきっかけだった。


同時に、私は確信した。オノマチ糸子は、二度と戻らないのだ、と。
回想シーンすら回さない、徹底した演出も言うだろう。オノマチ糸子は、二度と戻らないのだ、と。
彼女は思い出の写真と同じ。美しく、温かい、遠い存在になってしまったのだ。

もし、彼女がもう一度出演するとなれば、それは『小原糸子』の人生が燃え尽きる刻となるに違いない。

そして、渡辺あやは、描かないだろう。
誰もが求め、すがりたいオノマチ糸子の面影には目もくれず。
小原糸子は過去にではなく、未来へ向かって生きる人間であるのなら。
「小篠綾子さんという人生をテーマ」とするなら、なおさら描くことはないだろう。

だから私も、オノマチ糸子は求めない。求める必要は無いのだ。華やかな恋心と共に現れ、三週間だけ酔わせてきっちり去っていった周防さんと一緒。少なくとも、自分の記憶の端々には、十分に演じきったオノマチさんがいる。20年の断絶に、一瞬途方にくれたけど、案外ちゃんと繋がっていた。むしろ惜しむ気持ちに流されて、中途半端に登場させたら私は怒ると思う(笑)

オノマチ糸子のラスト回が、実質的な最終回というのも分かる。だから無理に観ろ、とは言わない。「面白くなくなった」と、無謀な賭けにつきあいきれず下りる人。「案外いけるよ?」とうまく乗り切れて楽しめる人、どちらも正しいのだと思う。どっちの観方も許されているんじゃないかとすら思える。そもそも無理して観ることはないのだ。私も興味のないドラマは見向きもしないんだし。

オノマチ糸子が積み上げたものを大切にするためにも、ひとまず最後まで観てみよう。残り三週間。夏木糸子が着地して、はじめて『カーネーション』というドラマは完成されるのだから。



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