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「朝ドラの、純粋な『主人公』は、叱られ反省して罰を自覚して成長すべき」という考えがある
朝ドラだけの傾向かもしれないけど、「純粋な主人公は罰を受けるべき」考えがある。ごく一部だけど、割と昔からある。私もその一部の人間だった。

「『主人公』は無邪気なヒロイン様で自分の好きな道を選んで生きていけるけど、影で泥を被って泣いてる人が必ずいる。その無邪気さは毒だから、主人公は自らの毒に気づいて自覚し、『罰』を受けなければならない」

『主人公』は、主人公だから純粋でいられるから。
『主人公』はヒロイン様で世間知らずに決まってるから。
『主人公』だから、誰かを踏み台にして幸せを奪ったのだから。
いつかそれに「気づき」「反省し」「学ばなければならない」。

私もそんな風に思ってた。『主人公』とは、『ヒロイン』とは特権で、その分誰かを傷つけて生きることに対し、必ず自覚して反発を受けなければならないんだと。


だけどある日、突然気がついた。

きっかけは『マッサン』だった。日本に来たエリーの前に、政春の婚約者と名乗る女性が現れて嘆く姿と、戸惑いながらも誠実に接しようとするエリーの態度に。

ふと。「いや、『それ』って違うんじゃないのか?」と。

エリーは、婚約者を傷つけたくて傷つけた訳じゃないし、婚約者も、本当はエリーを許したいだけなのだと気がついて、不意に目が覚めた気持ちになった。

彼、彼女は、みな、一生懸命生きているだけだ。一生懸命生きるということは、思いがけず、大切な誰かを悲しませたり傷つけたりする。

それだけのことなんじゃないのかと。

同時に自分の抱いていたそれは、『因果応報』を理由にした『歪んだ懲罰感情』だったと理解した。そして「学ぶこと」を『罰』を考えている自分にも。

「自分はなんで、こんなに歪んだ懲罰感情を持ってたのだろう」。
「いつから、そんな風に考えていたのだろう」。
「何を根拠に、そう考えていたのだろう」と。


ひとつ言えるのは、『そうしなければバランスが取れない』という間違ったバランス感覚が、自分の思考を縛っていたのではないかと言うことだ。

過去、何年にも渡り、『連続テレビ小説』は多くの物語を紡いだ。『ちりとてちん』や『カーネーション』のような、自分にとって生涯の傑作に出会った反面、『まれ』のような『表現者が行ってはならない境界線とはなにか』を反面教師的に教えてくれるものもある。他にも忘れてしまったもの、遠い思い出の彼方からひょっこり顔を覗かせ手を振るように心を温かくさせるもの。思い出しただけでも涙が溢れるもの。


ただ、全ての作品に言えるのは「主人公は純粋ではなく、『ただの、見ている我々と同じ愚かな人間』なだけ」だけだということ。


人間とは歪で不完全な生き物だ。そして『主人公と言う人間』は一人ではなく、あの画面の中にいる全ての人間が主人公なのだ。彼、彼女達がそれぞれの想いを胸に抱き、時に手を取り合い、時に袂を分かつ。そうして愚かな人間達の積み上げられていく美しい物語の形を、自分は見ているにすぎないのだと思った。

そして「誰かを踏み台にして得た幸せに浸ってる」とか、「主人公は純粋だから学ばなければならないとか」という考え方が、ひどく狭い了見であり、自分自身で偏狭な型にはめ込み、ドラマをつまらなくしてただけだったのだと悟った。

主人公は自分が幸せになるために努力する。その努力の中に、取り返しのつかない失敗や、修復不可能な人間関係も含まれる。彼らも彼女も胸に抱き『忘れずに生き続ける』からこそ、名作や傑作が生み出されるのだ。

主人公がガツンと言われて溜飲が下がるシーンはあっても、それだけでは何の稔もはない。

真の感動は、「無知なる主人公へ罰を期待する」ことでもたらされない。彼ら彼女らが迎えるのはあくまで試練であり、形は違えどいつか乗り越えるために存在するものだ。それは同時に、登場人物たちがそれぞれの心の傷や自分の行ってきたことから逃げずに向き合った末に得られる結論の形であり、その全てが観る側の望む形でないが故に、受け手の心が揺さぶられるのだ(もちろん、そのためには制作側への揺ぎ無い信頼が最低限の条件になってくるのだが)。


人が生きる姿を哀しくも愛おしく思うこと。自分の間違いに気づいたことで『物語を楽しむ基本』がやっと見つかり始めてきたなあと思う。
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